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2023.05.24INTERVIEW

急成長を遂げるFinTechスタートアップ。新規事業を担うBizDevが目指すものとは

20代の働き方研究所 研究員 Y.S.
株式会社カンム
事業開発(BizDev)
宮尾 拓(みやお たく)様


ミッションに「心理的unbankedをソフトウェアで解決する」を掲げる株式会社カンム。海外では「unbanked」は自分の銀行口座を持たず金融サービスにアクセスできない人を指しますが、カンムは金融サービスが「面倒」「難しい」「怖い」「不安」といった心理的ハードルから、満足のいく金融体験のできない方を対象に、誰でも作れるVisaネット決済専用プリペイドカード「バンドルカード」や、値動きを気にすることなく資産運用できるクレジットカード「pool(プール)」といったサービスを展開しています。バンドルカードは600万ダウンロードを突破(2022年9月28日時点)しているほか、デロイトトーマツが発表している「日本テクノロジー Fast 50」売上高成長率ランキングにおいては、2019年の1位、2020年の2位に続き、2021年も3年連続でランクイン。2023年3月には三菱UFJ銀行との資本業務提携、グループ参画を果たしています。

今回、お話を伺った宮尾さんは同社のBizDev(Business Development:事業開発)として、こうした様々なサービスの開発に取り組まれています。業界を問わず事業のライフサイクルが短くなる中、継続して新たなビジネスを生み出すうえで意識されていることはなにか、また、20代のうちに経験すべきことは何か、宮尾さんのお話を伺いました。

事業部長、新規事業立ち上げ、起業…ゼロからビジネスを立ち上げる人材へ

―まずはこれまでのご経歴について伺います。一橋大学大学院を修了されたのち、ガイアックスへ入社、そして子会社のアディッシュで事業部長を担当するなど、様々なご経験を積まれているそうですね

新卒でガイアックスに入社しましたが、様々な事業を分社化していく最中でした。いくつかの子会社の中の一つがアディッシュであり、そこへ転籍しました。その後、株式会社フリークアウト・ホールディングスの子会社がFinTechの新規事業を立ち上げるということで、転職したんです。

その会社がバンドルカードに後払サービスの提供を開始するタイミングであったため、フリークアウトの投資先であったカンムに転籍することになりました。その後、カンムを一度退職し、ZOZO創業者の前澤 友作さんの下でFinTechの決済事業を展開する会社の立ち上げに参加しました。そして、起業も経験し、1年ほど前に再びカンムに戻ってきたという経歴です。

―途中からFinTechの領域でキャリアを築かれていますが、もともと関心があったのでしょうか

新卒の時は教育事業に興味があり、その分野で事業を起こしたいという思いでガイアックスへ入社しました。若い社員にも裁量を与える環境が魅力的でしたし、起業する社員も数多く、そのような環境で働きたいと考えました。FinTechへ関心を持つようになったのは、ここ5年ほどのことです。

―関心を持つようになったのはどんなきっかけからだったのでしょう

学生時代から資本主義の仕組みに興味があり、修士論文のテーマもそれに関するものでした。フリークアウトへ転職してFinTechに関する事業立ち上げに参加したいと思ったのは、ゼロから一を作り上げたいという思いに加え、そうした学生時代からの興味・関心があってのことだったように思います。

―事業部長を経験されたり、新規事業の立ち上げや起業もされるなど、経営者的な経験を積んでいらっしゃることも印象的です

大学院時代に軽井沢にインターナショナルスクールを立ち上げるプロジェクトに参加していました。学生ボランティアとしての参加でしたが、そこでは外資系の金融機関やコンサルティング会社などで働かれていた方々が手弁当で学校を作る姿を目にすることができ、プロでありながら想いをもってゼロからプロジェクトを起こす姿が、自分にとってのロールモデルになりました。

振り返ってみると、当時は「ソーシャルベンチャー」なども話題になっていた時期ですが、自分もそうした領域に挑戦したいと思ったこともあり、こうした体験が自分のキャリアにつながっていったのだと思います。

―カンムにもう一度戻ろうと思ったのはどんな理由からだったのでしょうか

最初に転籍した当時は、正直なところカンムのことは全く知りませんでした。ただ、一緒に仕事をする中で、カウンターパートのエンジニアの方が非常に優秀で「こんなにすごいエンジニアがいる会社があるのか」と興味をもったことがきっかけになりました。優秀な人たちと一緒に仕事できることが楽しかったんです。

その後も転職や起業もしましたが、やはり自分が心地よく働ける場所に行きたいと思い、これまでのキャリアでもっとも楽しく働くことができたカンムに戻ろうと決めました。

様々な制約をクリアし、前例にとらわれない。BizDevのやりがいと求められるもの

―一般的にBizDevは事業開発やM&Aなどを担う存在かと思いますが、カンムのBizDevはどのような担当領域で、そこにはどんなやりがいがあるのでしょう

いくつかのポイントから整理できると思います。まず既に商品内容が決まっているものを販売するセールスとBizDevは異なるということ。次にその職務において外部リソースを借りるかどうかということです。ただし、キーファクターとなるのは「線形成長か非線形成長か」ということです。

―それはどういうことでしょうか

既存のKPIを達成していくことは線形成長といえますが、非線形成長とは非連続な成長とも言え、従来のKPIの延長線上にはない成長を生み出すことがBizDevのミッションですし、カンムにおいてもそのように捉えています。

形のない新規事業はすべて非線形な成長を生み出すものですし、既存事業であっても劇的な改善を実現するような取り組みはそう言えます。カンムでは「バンドルカード」というアプリで発行できるプリペイドカードのサービスを展開していますが、それに後払いチャージ機能を搭載し、クレジットカードのような活用ができるようにしたことは一つの例だと思っています。

―そうした仕事のやりがいはどこにあるのでしょうか

FinTechのBizDevとしての話となりますが、法律などの制約が非常に大きい業界です。また、そもそもスタートアップ企業はリソースなどの面での制約もあります。そうした中でも事業を成長させていかなければなりません。様々な条件をクリアできるように試行錯誤し、パズルのようにぴったりはまったときに面白さを感じますね。そしてこれはロジカルな考え方だけでは見いだせないもので、時には前例のないような奇抜な発想も必要になってきます。

そして、業績に直結する仕事です。そこには大きな責任も発生するものの、やり遂げた時には大きなやりがいも感じられます。

―BizDevの仕事は大きなやりがいとともに、それに応じて責任も大きなものだと思いますが、この仕事をするにあたって必要な素養や能力とはどんなものなのでしょう

大前提として、知的好奇心が強い、学ぶことが好き、といった特徴が活きる仕事だと考えています。ステークホルダーが多く、例えばカンムであれば法律やコンプライアンス、ファイナンスの社内担当者のほか、エンジニアやデザイナー、そして社外の方ともコミュニケーションをとらなければなりません。それぞれに合わせた対応ができるように学ぶことが必要となるのです。一人ひとりの専門領域が異なりますし、大切にしている観点も違うので、同じ言語(プロトコル)でやりとりできることが大切だと思います。また皆が目線を揃えられるように要件を言語化する能力も大切です。

ドメイン知識も必要不可欠です。その分野に特化した情報がなければ事業をレバレッジさせる発明を生み出すことはできませんから、知識を収集するということはもちろん、ブログなどで発信をしていき知見を深めていくことも重要です。

ただ、こうしたスキルよりも、失敗をいとわないという姿勢が大事だと思います。とにかく顧客と向き合って、ユーザーが欲するものを発明する、それが成功するか関係者やマーケットに諮り続けていかなければなりません。恥や失敗を恐れていてはできないものだと思います。

論理的な思考能力や情報収集能力といったコンサルタントのような素質に加え、発想力や、実際に現場に足を運び自分の目で見て判断するという、すこし泥臭いようなこともBizDevの役割を担うには必要なのです。

―読者がBizDevを目指すにあたり、どんな職種・業界経験を積めばいいか、もしくはこんな資格やスキルを身に着けておいたほうがいい、などアドバイスできることはありますか

例えば、職種で言えば、マーケティングの経験は活きると思いますが、すでにできあがったものを拡販する部分に特化するよりも、「そもそも何を作ったら売れるのか」という企画の部分を担うマーケティング経験はBizDevの役割と重なる部分が大きくなると思います。

企業間の取引は購入者と販売者の二者間で行われますが、若いときに販売側(セールス)を経験しておくと、BizDevとして外部のステークホルダーを巻き込むときに活きると思います。大手企業に入社すると購入側しか経験しないケースもあると思いますが、販売側の苦労は一度は経験してもいいかもしれませんね。

―一方で時には前例にとらわれないような発想も必要なのでクリエイティブな要素も必要そうですね

そうした能力をどうやって身に着けたらいいのかという議論は社内でも時折、話題となることがありますが、一定の力は後天的に身に着けることが可能だと思っています。完全にゼロから何かを作り出すということはそう多くはなく、既存のものを組み合わせることの方が多いと思っています。

そのため、まずは引き出しの多さが重要です。いかに多くのことをインプットし、その情報を組み合わせて何ができそうかを考えていき、アウトプットしてみる回数を増やしていくことで能力は身に着くと思っています。もちろん、アウトプットしたときにきちんとフィードバックがもらえる、壁打ちできるような環境をつくることも大切です。

社内でよく言われているのは「BizDevは一人で考え続けるな」ということです。30分考えてみてアイディアが出てこなかったら早くアウトプットしてフィードバックをもらおうというのが共通認識です。新しいものを「発明する」というと、頭を絞って考え抜いて、一つのものを生み出すというイメージを持たれるかもしれませんが、そうではありません。たくさんの仮説を生み出し、それを壁打ちして磨き上げていくことの方が重要です。
 
 

変化の激しい時代だからこそ、20代には「胆力」を身に着けてほしい

―現在は既存のビジネスモデルが長く続くわけではなく、常に新しいビジネスモデルを考え続けなければならない状況です。BizDevに限らず、そうした現代でキャリアを築くために20代のうちにできることは何でしょうか

20代のうちに経験してもらいたいことは「胆力」を身に着けることじゃないかと思っています。新しいビジネスモデルを作り上げるときはもちろん、そのビジネスモデルの中で成果を上げるにしても、最初はリソースが不足している中でスタートするものです。その不足を埋めるものをどこかから持ってこなければならず、その力は1日や2日では身に着きません。

しんどい中で踏ん張って、何とかして結果を出した経験のある人は、それだけですごみが増すというか、説得力が出てくるものです。ですので、うまくいかないときにすぐに環境を変えるのではなく、踏みとどまってブレイクスルーできた経験が、次の環境に行ったときに活きるのではないでしょうか。

―リソースを調達するための第一歩としてはどんなことができるでしょう

例えばセールスとして働いている方であれば、企画の部署に掛け合って、商品性自体を見直す相談をしてみるとか、顧客提案にあたって材料が不足していれば必要なデータを出してもらうよう協力を仰ぐとか、そういったことができます。もちろんすべて自分でできればいいのですが、最初から何でもできる人はいません。それよりもゴールを達成するために、自分に足りないものは自分で何とかする、人の手を借りる、そういったマインドが大切なのではないでしょうか。

―ただ、社外のリソースも重要ですよね

その通りです。社内にはないリソースは外に求めるほかありません。そのためには意識的に自分でテーマを決めて社外に情報発信し続けることが必要です。私もFinTechの業界にきて、まずは情報発信を続けていました。その結果、1年後くらいにはFinTech関連のイベントの登壇者として招待いただくまでに至っています。そうすると、いろいろな繋がりができていき、仕事においても役立つ人脈が形成できたように思います。

―ここでいう「情報発信」とは先ほどお話にあったようなブログを書くといったようなことでしょうか

そうです。ブログやTwitterなどのSNSを通じて情報発信することで、同じようなことに関心を持っていたり、その分野で活躍されている方の目に留まり、交流が生まれてくるものだと思っています。
 
 

心理的unbankedを解決するために、目指すこととは

―カンムでは「心理的unbankedをソフトウェアで解決する」というビジョンを掲げています。宮尾さんは今後、それに向けてどんなことに取り組みたいと考えられているのでしょうか

FinTechの業界で「unbanked」とは金融サービスにアクセスできない人のことを言います。海外ではそもそも銀行口座を持てずサービスを利用できないという人もいますが、日本の場合にはほとんどの人が銀行口座を持っているので、サービスにアクセスすることはできます。

そうしたときに、「心理的unbanked」とは、難しそうとか、面倒そうという心理的なハードルがあって金融サービスにアクセスできない状態の日本人のことを指し、そうした状態をソフトウェアによって、より使いやすく親しみやすい状態をつくっていくことをビジョンとしているのです。

そのビジョンの実現に向けて、会社としては「バンドルカード」や「Pool」といったサービスを展開していますが、決済にとどまらず金融体験のすべてをよりよいものにしていきたいという思いを持っています。社内では「新しい銀行をつくりたい」という会話も出てきています。もちろん、銀行をつくるといっても銀行業のライセンスを取得するのではなく、金融サービス全般に面を広げていくという意味ですが、三菱UFJ銀行との資本業務提携を通じ、さらに多くの人の金融体験を変えていきたいですね。

また、海外では金融機関を揶揄する表現として「hidden fee(隠れた手数料)」という言葉が使われます。これはリテラシーの低い方の足元を見て複雑な仕組みを作り、気づかないうちに手数料を取るといったようなことを指しますが、日本にも少なからず同じような状態があると思っています。金融は事業者と一般の方との間で情報の非対称性が高い分野です。だからこそ、私たちはシンプルで透明性の高い金融体験を実現したいとも思っています。

―三菱UFJ銀行との資本業務提携によって、取り組みは加速しそうでしょうか

具体的な話はこれからではありますが、三菱UFJ銀行にはたくさんのお客様がいます。私たちだけではアプローチしきれなかった多くの方により良い金融体験を届けることができればと思っています。

銀行口座と証券口座が完全に別のサービスとして提供されているなど、複数の金融サービスを利用者が横断的に管理する必要があり、現状では金融体験が分断されています。個人的な思いとしては、預金口座からシームレスに投資などの資産運用ができるようにするなど、いろいろな金融サービスを集約して、シンプルなものとして提供する、といったことに挑戦したいと思っています。



株式会社カンム
2011年1月設立。「心理的unbankedをソフトウェアで解決する」をミッションに掲げ、金融体験の向上に受けてサービスを展開。現在はアプリからすぐに発行できるプリペイドカード「バンドルカード」、手元の資産形成に活用できるクレジットカード「pool」を運営。2022年12月には三菱UFJ銀行と資本業務提携、グループへの参画を発表している。

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 Y.S.

1991年12月生まれ。
新卒で大手新聞社に入社。記者として取材・記事の執筆を経験後、Webサービスを手掛ける企業に転職。約20名のメンバーのマネジメントの傍ら、Webサイトの開発・サイトの集客プロモーション・取材やライティングを幅広く担当。20代の働き方研究所では、企業へのインタビュー取材・取材記事執筆を担っている。
#カスタマーサクセス #コンテンツディレクション #イベントプロモーション #仕事終わりの晩酌が日課

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