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2021.09.08FOCUS

【渦中の人に聞く】銀行員から水中写真家に。異色の転身を遂げた茂野さんが語る、「好きを仕事にする」キャリアの築き方

20代の働き方研究所 研究員 S.M.


水中写真家 茂野優太さん

DXをはじめとする急速な社会の変化により、生活のあらゆる場面での選択肢が増え、価値観も多様化しました。SNSなどで、好きなことを仕事にしている人を目にする機会もあるのではないでしょうか。「どうしたら好きなことを仕事にできるのかが分からない」「憧れるが、自分とは違う世界の人の話」と感じている方も多いと思います。
今回は、銀行員から水中写真家に転身され、写真家としての活動だけでなくダイビングショップの経営などにも携わる茂野さんに、好きなことを仕事にするための秘訣を伺いました。

幸せの価値観はたくさんある

-水中写真家としての活動の他にも、さまざまな事に取り組まれています。活動内容についてお聞かせいただけますか。

ダイビングショップを共同経営しています。水中写真家の活動としては、写真展での写真販売、フォトツアーの企画・実施や毎週開催しているフォトセミナー等です。また、映画の撮影や、テレビに海中の映像提供などもしています。

-以前は、銀行員をされていたそうですね。銀行員から水中写真家。異色のキャリアに見えますが、なぜこのようなキャリアを選択されたのでしょうか。

元々、大学時代にダイビングサークルの先輩とダイビングショップを経営していました。高校生のときからダイビングに夢中になっていて、大学生になってより活動が本格化したのですが、その中でたくさんのダイビングのインストラクターにも出会いました。経験を積んでも、決して所得水準が高い職業では無いですが、ダイビングしてその後はバーベキューしてお酒を飲んで、とても充実した人生を送っているように見えました。
高校までは、身近な友人はみんな大体同じ環境で育ってきているので、なんとなく将来は良い大学出て、良い会社行ってそこで出世して・・・といったオーソドックスなルートしか考えていませんでした。ところが、大学生になっていろいろな人に出会って、幸せの軸ってたくさんあるんだな、ということに気づきました。ただ、自分の将来を考えると、やりたいことをしたいと思いつつも、一方で王道と言われるキャリアを捨てることが怖くもありました。ならば両方できないかと考えてファーストキャリアに選んだのが地方銀行員でした。

-なぜ、地方銀行員なのでしょうか。

まず、地方銀行ですので、土日は休みですし全国的な異動もありません。ダイビングをしつつ、土日はダイビングショップの手伝いをしたかった私にとってはぴったりの条件でした。また、ダイビングショップを手伝う上で、財務に関する知識を身につけたかったという理由もあります。

-就活の時から、ダイビングショップの拡大も視野に入れていたのですね。その一方で水中写真家になったきっかけは何だったのでしょうか。

銀行の仕事がつらくてふさぎ込んでいた時に、Instagramに流れてきた水中の写真に元気づけられたのがきっかけです。ダイビングのインストラクターは来てくれた人を元気にできるけれど、写真であれば遠くの人にも元気を与えることができると思い、フリーランスの水中写真家になることを決意しました。


小笠原諸島母島で撮影したウメイロモドキの大群

会社員以外のキャリアを選択するということ

-フリーランスで仕事をしてみて、銀行員時代とのギャップはありますか。

まず、良い変化として仕事を取捨選択できるようになったことがあります。やりたくないと思ったらやらない選択もできますし、逆にお金にならなくても、やりたいと思ったことができる自由があります。最初は大したお金にならない仕事でも、大きな仕事に育てていけるかは自分の能力次第なので、そういった面白さもあります。
逆に大変なことは、自分のキャパシティを超える仕事は請けられないということです。私の場合、基本的に仕事は楽しいので、たくさん請けてしまいがちなのですが、その結果一つひとつの仕事のクオリティが下がってしまい、クライアントに指摘されてしまった経験があります。組織での仕事であれば、個人のキャパシティを超える仕事は組織で吸収できますが、それができないのがフリーランスの大変な点だと思います。

-お金にならなくてもやりたい仕事には、どんなものがあったのでしょうか。

一つは、地方の新聞社や広報誌の仕事は全て請けるようにしています。地域を活性化させたいという想いがあります。もう一つは、学生サークルへのダイビング講習の仕事です。水中写真家の力はクオリティと発想力です。クオリティについてはベテランの写真家に敵わないこともあるので、発想力で勝負していきたいと考えています。情報発信のためにはSNSなどのツールが最適ですが、最先端のツールに日常的に触れている若い世代からはいろいろなことを学べます。あとは純粋に若い世代が楽しんでいるのを見ることが嬉しいという理由もあります。根本として、好きなことを仕事にしたいというよりも、好きなことをたくさんしたい、という価値観があります。

-地域を盛り上げたいという想いもあるのですね。

はい。ダイビング業界の課題として、ダイビングがその地域特有のレジャーでありながら、他の地元産業とあまり連携が図れていないように思います。伊豆でも多くのダイバーが遠方から訪れますが、ダイビングを終えるとほとんどの方が日帰りで帰ってしまいます。地域に海がある生活の楽しさやライフスタイル、価値観を知ってほしい。そのために、ダイビングや水中写真家の仕事を通して、地域の魅力をトータルで発信したいと考えています。

目の前のことにただ、全力投球。意味は後から生まれる。

-やりたいことを仕事にするのは輝いて見えますが、会社員以外のキャリアを歩むことで収入への不安は無かったのでしょうか。

あまりありませんでした。銀行を退職するまでにも、例えばSNSでダイビング講習の告知をすることで、ある程度人を集められることは分かっていました。手伝っていたダイビングショップの収益も生活を維持できる程度の収益を上げる目途が立ったこともあります。また、銀行を退職後、インドネシアのラジャアンパットに滞在してした経験があり、その時は月収3万円だったのですが、それでも充実した生活ができていました。そうした経験から充実した生活をおくるために、そこまでたくさんのお金は必要ないことが実感として得られたことも影響していると思います。地方での生活は都会ほどお金がかからないですからね。

-なるほど。お話を伺っていると、ダイビングや写真を仕事にするために、キャリアを綿密に計画されてきたように思います。

それについては、そうでもないと思います。これまでの人生を振り返ってみると、計画的に動いていたというよりも、むしろ回り道ばかりだったように思います。1日14時間取り組んだ受験勉強、胃腸炎になるほど働いた銀行でのキャリア、1年中ほぼ毎日働いていたダイビングショップの仕事、今でもそれらの経験に本当に意味があったのか疑問に感じることもあります。ただ、例えば水中写真家の立場から振り返って見ると、写真というアートの世界でビジネスの目線とクリエイターの目線を併せ持てたことが、今の活動にもたらした恩恵は大きかったと思います。これまでの経験に意味があったのか、それとも無かったのか。それは後から振り返ってはじめて見い出すものだと思います。一つひとつの取り組みに対しては全力投球、その時の方向性はバラバラでも、後から見ると意味がある。そういうものだと思います。

慶良間諸島、阿嘉島で撮影したサンゴ礁とそこに住む南国の魚たち

実現したいことは、まず宣言する

​​​​​​-一方で、将来の見通しが立たない中で一歩を踏み出すことは勇気が要ると思います。フリーランスとしての活動をはじめる際に、やってよかったことはありますか。

自分が実現したいことを宣言することです。私は銀行を退職するときには「水中写真家になります!」と言って辞めました。思い返してみたらその時点では、カメラすら持っていませんでした(笑)。しかし、宣言することで周りの人が「こいつは水中写真家になるんだな」という目で見てくれるので、色々な情報や機会が集まってくるようになります。また、宣言することで自分にかかるプレッシャーも背中を押してくれます。

-今後実現したいことはありますか。

水中写真家としての活動では、より多くの方に写真を見てもらえるよう、発信力をもっと上げていきたいです。
また、ダイビングインストラクターを若い人の憧れの仕事にしたいです。労働条件や環境はまだまだ課題が山積みです。「ダイビングってカッコいい。レジャー産業であればダイビング業界への就職が一番いいよね」と言ってもらえるところまで、業界水準を高めていきたいです。

-最後に、今後のキャリアを考える20代の方にメッセージをお願いいたします。

先ほどお伝えした通り、キャリアの選択はある意味なんでもいいと思います。その時々に何をやっているかより、どうやっているか、どのくらいやっているかの方が、30代以降のキャリアにとっては重要だと思います。私もこれまで取り組んだ本当に様々な経験がもとになって今があります。何かひとつでも熱中して取り組む努力ができれば、失敗することがあっても、いつでも取り返せるはずです。何を選択するかよりも、選択した何かにしっかりと向き合えば、きっと先々大きな財産になると思います。

水中写真家 茂野優太さん

「写真の力で誰かを元気にしたい」をテーマに世界中の海で活動中。水中写真家としての活動の他、ダイビングインストラクター、水中ガイド、ダイビングメディアの運営なども行う。『しげのゆうたの旅ぶろぐ』『YouTube』で世界中の水中の様子を発信中。

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 S.M.

1988年12月生まれ。
大学在学時から教育に興味があり、職種別採用で就職情報会社の大学営業職として入職。以降、キャリアアドバイザーとして多くの学生のキャリア教育・就職支援に携わる。社会人のキャリア形成やリカレント教育への興味から、20代の働き方研究所に参画。自身の研究の傍ら、20代の研究員への助言・サポートをしている。休日の過ごし方はカフェ巡り。
#キャリア教育 #職場環境 #愛・ボードゲーム

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